Mitochondria transfer from neurons to cancer

Hoover, G., Gilbert, S., Curley, O. et al. Nerve-to-cancer transfer of mitochondria during cancer metastasis. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09176-8

2度目のJournal Presentation. 前回は世界で最もタフな生物クマムシの論文を取り上げて、面白おかしく話したが、今回も、研究に役立ちそうでありつつ、でも面白いなと思った気持ち重視で論文を選んだ。今回は先月Natureに投稿された、がん研究の論文。これは神経細胞とがん細胞の間の相互作用について示している。うちのラボのscRNAseqデータを見ていても、腫瘍でよく神経関連の因子が上昇していて、なんでかなあと思っていたので、目を惹かれた。面白いことに、筆者らはin vitroの共培養、in vivoマウスモデル、ヒト前立腺癌の患者サンプルの3種類の実験系を使って、神経細胞からがん細胞へとミトコンドリアが受け渡しされていることを突き止めた。かつ、マウスでの遺伝子学的ツールを用いて、神経細胞からミトコンドリアを受け取ると、GFP(緑色蛍光タンパク質)を発現するがん細胞が、RFP(赤色蛍光タンパク質)へと発現を変えるシステム(MitoTRACER)を樹立した。これにより、同じがん細胞でも、神経からミトコンドリアを受け取っていないものは緑、受け取ったものは赤にラベル分けされるため、その二つで比較することが出来るのだ。これを調べ、緑色のミトコンドリアを受け取ったがん細胞は、酸化ストレスなどのストレス耐性が高く、かつ転移能も上がっているということを突き止めた。流れも綺麗だし、複数の細胞系で検討をして念押ししているから、信頼できるデータな気がした。なおかつ、MitoTRACERの作用機序が、私が京都で昔、取り扱っていたSynNotchシステムに似ていて、こういうのはやはりちょっとワクワクするなと思った。ハエの遺伝子学的ツールの複雑さと美しさに少し似ているから馴染み深さもあるし、それを培養細胞系でやるのはなかなか技術的な難しさがあるというのを身をもって知っているから、樹立してうまく機能している様子を見て嬉しくもなる。それにしても、がんは神経幹細胞を分化させる因子を分泌して今回のように味方につけるらしい。生存本能は強いのかなんなのか、本当に様々な変化をもたらしてしまう厄介さがあるなあ。

今回、発表が近付いてもスランプ気味で集中出来てなかったんだけど、結果として今日の発表はまあまあ満足の出来だったし、論文を通して人の仕事を見て、やる気をもらえた気がする。終わった後、ポスドクの方から、良い論文チョイスだった!と言ってもらえてちょっと嬉しかった。なまじ皆さん、自分の研究テーマとほぼ同じ、共同研究者の論文などを紹介していたりすることが多く、論文発表の論文は研究分野より少し外れていても、面白さや新規性で選ぶべきだという考えを受け入れてもらえないのかなとの心配は常にあるので (かといって論文紹介はそうあるべきだと思っているのでこの選び方を変えるつもりもないが)、尊敬する先輩の一言に背中を押してもらえたりする。


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